出産費用の保険適用検討について思うこと

出産費用の保険適用検討について思うことを書いてみました

①保険適用と出産育児一時金の違い
②保険適用で負担はどうなるか
③出産費用が高くなっていく理由(推測)
④保険適用にするなら診療報酬をどうするか
⑤国が負担しても良いのでは




①保険適用と出産育児一時金の違い

◎出産育児一時金
1994年10月から開始 30万円
2006年10月~    35万円
2009年 1月~     38万円
    10月~     42万円
2023年 4月~     50万円

出産育児一時金は健康保険から支給されています(国からではありません)
 

◎保険適用
医療費の3割を窓口負担
医療費の7割を健康保険から負担(国からではありません)
 

出産育児一時金も保険適用の医療費7割も、ともに健康保険から支給・負担しています

健康保険は主に被保険者と事業主の保険料から成り立っています
※国民健康保険や一部の健保には公費負担があります



②保険適用で負担はどうなるか

◎出産費用は地域差が大きい

公的病院・正常分娩 都道府県別出産費用(令和3年度)
※室料差額等を除く
・最大値 東京都 565,092円
・最小値 鳥取県 357,443円
207,649円の差

・50万円を超えているのは
 東京都・神奈川県・茨城県の3都県のみ
・40万円以下は6県
 鳥取県・佐賀県・沖縄県・奈良県・高知県・大分県

保険適用は3割負担になるので、地域によっては出産育児一時金50万円のほうが負担が軽いことも
 

◎出産費用の内訳

全施設・正常分娩(令和3年度)
入院料       115,776円
分娩料       276,927円
新生児管理保育料    50,058円
検査・薬剤料      14,419円
処置・手当料      16,135円
室料差額(A)      17,255円
産科医療補償制度(B)  15,203円
その他(C)       32,491円
合計        538,263円

・室料差額…妊婦の選定により、差額が必要な室に入院した場合の当該差額
・産科医療補償制度…産科医療補償制度の掛金相当費用
・その他…文書料、材料費及び医療外費用(お祝い膳等)等、上記の8項目に含まれない費用

保険適用の対象になるとしたら、A~Cを除いた部分
473,315円

473,315円×3割=141,994円
産科医療補償制度の掛金は12,000円に変わっているので
A+B+C=61,746円
141,994円+61,746円=203,740円

保険適用になっても負担は0ではない
 

保険適用になると高額療養費制度の対象になるので、3割負担の141,994円を軽減できることもあります

ただ、所得により上限額に差があるため、所得が多いとあまり軽減されない可能性もあります

また、高額療養費制度は月ごとに計算するため、出産による入院期間が月をまたぐと上限額を超えない可能性もあります
 

地域差やどの医療機関で出産するかによりますが
・現在の出産費用がどのくらいかかっているか
・所得が多いか少ないか
によって保険適用のほうが負担増になる可能性もあります

出産育児一時金は地域や所得による差はありません
 

保険適用にしたうえで、出産育児一時金が30万円ほどあれば、
実質無償化+育児のための費用になるかもしれません

そのうえで、個室や特別室など、通常よりも手厚い待遇を求める人は自己負担分があっても仕方ないように思います



③出産費用が高くなっていく理由(推測)

〇物価高

光熱費・医療器具や物品・入院中の食事の食材費など、医療機関も影響は受けていると思います
 

〇少子化による分娩数減少

出産育児一時金が42万円に増額された
2009年の出生数 1,070,036人
 ↓
2022年の出生数  799,728人(速報値)
▲270,308人 25.3%減少

出生数が100万人を超えていた最後の年
2015年の出生数 1,005,721人
 ↓
わずか7年で
▲205,993人 20.5%減少
 

推測になりますが
分娩数+妊婦健診減少→医療機関の収入減少
 ↓
分娩を扱う施設は、24時間体制・設備や人員などを維持しないと万全の対応ができない
 ↓
設備費や人件費は下げられないが、出産数は減少
周産期医療体制を維持するために値上げをする

ということかもしれません
 

●あくまで推測になりますが、一部の医療機関では出産数が減少しても

・出産費用の単価を上げるためにさまざまなサービスを付加している
(オプションではなくサービスとして)

・分娩数が減少している中、選ばれる産院となるために
 生涯に数回しかない出産の機会に、ご褒美としておもてなしを受けたいなどの心理から、さまざまなサービスを提供
 設備や人員などを充実させる

などによって出産費用が高くなっているのかもしれません



④保険適用にするなら診療報酬をどうするか

保険適用になると診療報酬が決まり、どこの医療機関でも同じ診療に対して同じ点数になります
 

●出産費用の平均値から診療報酬を決めると
設備や人員が充実している医療機関には厳しいかもしれませ

・設備や人員を減らす可能性
→安心安全で無事に出産できることが最優先ですがリスクが高まる可能性

・採算が取れず産科をやめてしまう可能性
→仮に出生数が増えても産む場所がなくなる可能性

人の命にかかわる産科や新生児科は、24時間体制で万全の対応をしていても訴訟リスクが高いと言われています
万全の対応ができない体制になれば、産科も産科医も減少していくかもしれません
 

●出産費用の診療報酬を高く設定すると
周産期医療体制を維持できるようになりますが、保険適用の3割負担であっても費用負担が軽くなるかわかりません



⑤国が負担しても良いのでは

「異次元の少子化対策」が掲げられていますが、少子化は「国難」と表現された時期もありました

「国難」とも言える危機的な状況であるならば、出産費用は国が負担してもいいのかもしれません


●令和2年 国民医療費の構造

国民医療費総額 42兆9,665億円

【財源別】の内訳
〇公費    38.4%(国庫 25.7% 地方 12.7%)
〇保険料   49.5%(事業主 21.3% 被保険者 28.2%)
〇患者負担等 12.1%
 

●出産育児一時金も保険適用も健康保険から支給・負担しています
☆妊婦健診の助成は、市町村による公費負担
 
保険適用で3割負担になりますが、残り7割は主に保険料から負担しています
出産育児一時金も、主に保険料から支給されています

健康保険は主に被保険者と事業主の保険料から成り立っています
※国民健康保険や一部健康保険には公費負担があります
 

【疑問】
◎出産費用は、健康保険からではなく国が負担することにできないのだろうか

◎保険適用ではなく、出産育児一時金のままで、国から医療機関に補助金を交付することで出産費用を据え置きや値下げができないのだろうか

など国が負担していくことは検討しないのだろうか


健康保険からの支出が増えれば、事業主と被保険者が負担する保険料は増える可能性があります
仮に国が負担する場合は、増税もしくは税金の使い道を変えていくことになります
両方を検討しても良いのではないかと考えてしまいます


安易に出産費用を保険適用へと話が進むのは不安も感じます

◎安心安全で無事に出産できることが最優先、費用負担が軽くなることでリスクが高まってはいけない

◎医療機関も医療従事者も急に増やすことはできないため、周産期医療体制を守ることは大事

と思いますが、多くの意見を反映させて良い方向へ進んでいってほしいです


2023年03月25日