◎妊娠中の鍼灸治療と安全性
「妊娠中に鍼をしてもいいの?」
と疑問や不安に感じる方もいらっしゃると思います
先にお答えしますと「基本的には問題ありません(安全である)」と考えています
鍼灸師という立場からの見方になってしまいますが、むしろ「妊娠中に鍼をおこなったほうが良い」と思っています
まずはその根拠をお示しし、どのような点に注意したら良いかを書いていきたいと思います
【目次】
○安全という根拠
○なぜ不安な情報があるのか
①歴史的背景
②経穴(ツボ)の混同
③禁忌穴
④WHO(世界保健機関)の影響
○妊娠中の鍼灸治療を受ける際の注意点
○最後に
少し長めの文章になりますが、ご関心のある方はお読みください
2015年にイギリスで以下の研究論文が発表されました
『産科鍼治療の安全性:禁忌穴の再検討』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26362792
その内容を要約すると
・妊娠中の鍼治療自体の安全性は合理的に十分に受け入れられているが、妊娠中に歴史的に「禁じられている」と考えられている経穴(ツボ)への鍼に関して検証する
・禁じられた経穴(禁忌穴)での刺鍼後の害の客観的な証拠はない
・妊娠のすべての段階で禁忌穴に鍼を刺した妊婦の流産率、早産などは、鍼をしていない妊婦と同等である
ことなどが書かれています
大前提として「妊娠中の鍼治療は安全である」とされており、その上で歴史的に妊娠中に禁じられているとされる禁忌穴に鍼治療をしても流産率や早産などの確率は変わらないと報告されています
では、なぜ妊娠中の鍼灸治療に対して危険という情報があるのか
私なりの考察を記していきます
鍼灸や湯液(漢方)は、日本でも古くから医療としておこなわれていました
『古事記』には、5世紀中頃に朝廷が良医を求めて、百済より医師が渡来し天皇の病を治療したとの記録があります
その後、仏教伝来と同時期に 中国医学とともに鍼灸が日本に伝えられたとされています
日本へ正式に伝来したのは6世紀とされていますが、朝鮮半島との交流はそれ以前からもあり、中国医学は朝鮮半島経由でもっと早くから日本へもたらされていたと考えられます
701年『大宝律令』の医事制度「医疾令」には、鍼生、鍼博士といった官職があり、国によって鍼が医療と認められたと言えます
医療では、さまざまな疾患や症状に対処していきます
これまでの歴史の中で、日本の医学、中国の医学(漢方医学)、朝鮮の医学(東方医学)を織り交ぜながら、のちにオランダの医学(蘭方)の知識の影響も受けながら、さまざまな治療法が確立されていきました
その中で「求嗣」といった現代の「不妊」の治療法や、妊娠中や難産のときの治療法などが『鍼道発秘』や『名家灸選』などといった江戸時代に書かれた医学書にも記載されています
そして「堕胎」の治療法もありました
現代の産婦人科で「人工妊娠中絶」がおこなわれているように、当時の医療の中でも「堕胎」の治療がおこなわれていました
現代の日本では、人工妊娠中絶が年間で164,621件おこなわれています
(2017年 厚生労働省「衛生行政報告例の概況」)
【日本人の死因】
1位が悪性新生物(腫瘍)で373,334人【部位別の1位は肺がんで74,120人】
2位が心疾患(高血圧性を除く)で204,837人【疾患別の1位は心不全で80,817人】
3位が脳血管疾患で109,880人
(2017年 厚生労働省「人口動態統計」)
これらと比較すると人工妊娠中絶件数の多さがわかると思います
ちなみに、2017年の出生数は946,065人です
昔の時代でも、堕胎をせざるを得ない状況はありました
困っている人たちにそういう治療を求められ、そういう治療法を考え確立していき、鍼灸でも堕胎の治療がおこなわれていたため、現在までのネット検索などによる情報伝達過程で「妊娠中の鍼灸治療は堕胎・流産の可能性がある」と誤解されてしまったのではないかと推測できます
堕胎の治療と不妊や妊娠中の症状の治療で、同じ経穴(ツボ)を使うことがあります
そのことも流産のリスクがあるように感じられるかもしれません
ただし、同じツボでも刺激の仕方で、不妊治療に有効になることもあれば、堕胎を促すこともできます
鍼灸師であれば、そのように使い分ける技術は持っているはずですが、受診する側からすると不安を感じるかもしれません
妊娠初期には禁忌の経穴(ツボ)と言われているものもあります
ただし、通常はあまり使用しないことが多く、また、上記の論文でもあるように、禁忌穴に鍼をしても問題ないとの報告があります
しかし、禁忌穴があるという情報から危険性を感じる方もいらっしゃると思います
かつてWHOでは、妊婦さんへの施術は禁忌としていた時期がありました
現在では妊婦さんへの鍼灸治療はWHOも認めていますが、古い情報が今でも流通しているということも、不安を生み出す要因の一つと思われます
適切な経穴(ツボ)を選択し、その人のからだに合った適度な刺激量で治療をすれば危険性はなく、むしろ鍼灸治療は妊娠維持や妊娠中の養生(健康管理・体調管理)に有効だと言えます
ただし、 いい加減な治療、粗雑・ガサツな治療、無知な治療はリスクを伴います(これは妊娠中に限らないお話しですが)
妊婦さんの治療に精通している・慣れている鍼灸院で治療を受けたほうが、より安心できると思います
※「これまで○年で○万人治療をしました」などと謳っている治療院もありますが、ほぼ間違いなく延べ人数であり実数ではありません
また、強調している数字に引っ張られやすいですが、冷静に1日当たりの人数に換算すると あり得ない数字 のこともあるのでご注意ください
◎ゆかり堂には、他の治療院で妊娠中の治療を断られた方が多くいらっしゃいます
他の治療院がお断りしている理由としては
・もし、何かがあった際に治療のせいだとされてしまうリスクがあるため
・妊婦さん(特に妊娠初期)を治療する知識と技術と経験が乏しいため
などが考えられます
妊娠中の治療は、正しい知識と技術と経験を伴い、かつ慎重にからだと心の状態を見極めながらその状態に合わせておこなっていけば、安全であり効果的です
いくら妊娠中の鍼灸治療は安全だとお示ししても、不安はぬぐい切れないこともあります
言葉では理解できても、気持ちが追い付かないこともよくあります
どうしても不安だという方は、無理に治療を受ける必要はありません
私が日常でおこなっている治療でも、つわり(悪阻)や逆子の治療や「安胎(胎児を安定させる一種の治療法 流産の予防など)」の治療をおこなっています
◎つわりと鍼灸治療
◎安産のための鍼灸治療
◎逆子の鍼灸治療
◎妊婦さんの鍼灸治療
また、妊娠初期から中期、後期、産前産後のさまざまな症状に対して、一人ひとりのからだの状態に合わせて治療をおこなっています
そして、毎回細心の注意を払いながら、リスクのない効果的な治療を心がけています
※これまで堕胎の治療をおこなったことはありません(そういう要望がないため)
妊娠中の鍼灸治療に対して感じている不安が、少しでも解消されればと思います
ただ、妊娠中に鍼灸治療を受ける・受けない、は皆さんの選択です
より安心で、より快適な妊婦生活を過ごせれば、選択肢や方法はいかなるものでも良いと思っています
「妊娠中に鍼をしてもいいの?」
と疑問や不安に感じる方もいらっしゃると思います
先にお答えしますと「基本的には問題ありません(安全である)」と考えています
鍼灸師という立場からの見方になってしまいますが、むしろ「妊娠中に鍼をおこなったほうが良い」と思っています
まずはその根拠をお示しし、どのような点に注意したら良いかを書いていきたいと思います
【目次】
○安全という根拠
○なぜ不安な情報があるのか
①歴史的背景
②経穴(ツボ)の混同
③禁忌穴
④WHO(世界保健機関)の影響
○妊娠中の鍼灸治療を受ける際の注意点
○最後に
少し長めの文章になりますが、ご関心のある方はお読みください
○ 安全という根拠
2015年にイギリスで以下の研究論文が発表されました
『産科鍼治療の安全性:禁忌穴の再検討』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26362792
その内容を要約すると
・妊娠中の鍼治療自体の安全性は合理的に十分に受け入れられているが、妊娠中に歴史的に「禁じられている」と考えられている経穴(ツボ)への鍼に関して検証する
・禁じられた経穴(禁忌穴)での刺鍼後の害の客観的な証拠はない
・妊娠のすべての段階で禁忌穴に鍼を刺した妊婦の流産率、早産などは、鍼をしていない妊婦と同等である
ことなどが書かれています
大前提として「妊娠中の鍼治療は安全である」とされており、その上で歴史的に妊娠中に禁じられているとされる禁忌穴に鍼治療をしても流産率や早産などの確率は変わらないと報告されています
○なぜ不安な情報があるのか
では、なぜ妊娠中の鍼灸治療に対して危険という情報があるのか
私なりの考察を記していきます
①歴史的背景
鍼灸や湯液(漢方)は、日本でも古くから医療としておこなわれていました
『古事記』には、5世紀中頃に朝廷が良医を求めて、百済より医師が渡来し天皇の病を治療したとの記録があります
その後、仏教伝来と同時期に 中国医学とともに鍼灸が日本に伝えられたとされています
日本へ正式に伝来したのは6世紀とされていますが、朝鮮半島との交流はそれ以前からもあり、中国医学は朝鮮半島経由でもっと早くから日本へもたらされていたと考えられます
701年『大宝律令』の医事制度「医疾令」には、鍼生、鍼博士といった官職があり、国によって鍼が医療と認められたと言えます
医療では、さまざまな疾患や症状に対処していきます
これまでの歴史の中で、日本の医学、中国の医学(漢方医学)、朝鮮の医学(東方医学)を織り交ぜながら、のちにオランダの医学(蘭方)の知識の影響も受けながら、さまざまな治療法が確立されていきました
その中で「求嗣」といった現代の「不妊」の治療法や、妊娠中や難産のときの治療法などが『鍼道発秘』や『名家灸選』などといった江戸時代に書かれた医学書にも記載されています
そして「堕胎」の治療法もありました
現代の産婦人科で「人工妊娠中絶」がおこなわれているように、当時の医療の中でも「堕胎」の治療がおこなわれていました
現代の日本では、人工妊娠中絶が年間で164,621件おこなわれています
(2017年 厚生労働省「衛生行政報告例の概況」)
【日本人の死因】
1位が悪性新生物(腫瘍)で373,334人【部位別の1位は肺がんで74,120人】
2位が心疾患(高血圧性を除く)で204,837人【疾患別の1位は心不全で80,817人】
3位が脳血管疾患で109,880人
(2017年 厚生労働省「人口動態統計」)
これらと比較すると人工妊娠中絶件数の多さがわかると思います
ちなみに、2017年の出生数は946,065人です
昔の時代でも、堕胎をせざるを得ない状況はありました
困っている人たちにそういう治療を求められ、そういう治療法を考え確立していき、鍼灸でも堕胎の治療がおこなわれていたため、現在までのネット検索などによる情報伝達過程で「妊娠中の鍼灸治療は堕胎・流産の可能性がある」と誤解されてしまったのではないかと推測できます
②経穴(ツボ)の混同
堕胎の治療と不妊や妊娠中の症状の治療で、同じ経穴(ツボ)を使うことがあります
そのことも流産のリスクがあるように感じられるかもしれません
ただし、同じツボでも刺激の仕方で、不妊治療に有効になることもあれば、堕胎を促すこともできます
鍼灸師であれば、そのように使い分ける技術は持っているはずですが、受診する側からすると不安を感じるかもしれません
③禁忌穴
妊娠初期には禁忌の経穴(ツボ)と言われているものもあります
ただし、通常はあまり使用しないことが多く、また、上記の論文でもあるように、禁忌穴に鍼をしても問題ないとの報告があります
しかし、禁忌穴があるという情報から危険性を感じる方もいらっしゃると思います
④WHO(世界保健機関)の影響
かつてWHOでは、妊婦さんへの施術は禁忌としていた時期がありました
現在では妊婦さんへの鍼灸治療はWHOも認めていますが、古い情報が今でも流通しているということも、不安を生み出す要因の一つと思われます
○妊娠中の鍼灸治療を受ける際の注意点
適切な経穴(ツボ)を選択し、その人のからだに合った適度な刺激量で治療をすれば危険性はなく、むしろ鍼灸治療は妊娠維持や妊娠中の養生(健康管理・体調管理)に有効だと言えます
ただし、 いい加減な治療、粗雑・ガサツな治療、無知な治療はリスクを伴います(これは妊娠中に限らないお話しですが)
妊婦さんの治療に精通している・慣れている鍼灸院で治療を受けたほうが、より安心できると思います
※「これまで○年で○万人治療をしました」などと謳っている治療院もありますが、ほぼ間違いなく延べ人数であり実数ではありません
また、強調している数字に引っ張られやすいですが、冷静に1日当たりの人数に換算すると あり得ない数字 のこともあるのでご注意ください
◎ゆかり堂には、他の治療院で妊娠中の治療を断られた方が多くいらっしゃいます
他の治療院がお断りしている理由としては
・もし、何かがあった際に治療のせいだとされてしまうリスクがあるため
・妊婦さん(特に妊娠初期)を治療する知識と技術と経験が乏しいため
などが考えられます
妊娠中の治療は、正しい知識と技術と経験を伴い、かつ慎重にからだと心の状態を見極めながらその状態に合わせておこなっていけば、安全であり効果的です
○最後に
いくら妊娠中の鍼灸治療は安全だとお示ししても、不安はぬぐい切れないこともあります
言葉では理解できても、気持ちが追い付かないこともよくあります
どうしても不安だという方は、無理に治療を受ける必要はありません
私が日常でおこなっている治療でも、つわり(悪阻)や逆子の治療や「安胎(胎児を安定させる一種の治療法 流産の予防など)」の治療をおこなっています
◎つわりと鍼灸治療
◎安産のための鍼灸治療
◎逆子の鍼灸治療
◎妊婦さんの鍼灸治療
また、妊娠初期から中期、後期、産前産後のさまざまな症状に対して、一人ひとりのからだの状態に合わせて治療をおこなっています
そして、毎回細心の注意を払いながら、リスクのない効果的な治療を心がけています
※これまで堕胎の治療をおこなったことはありません(そういう要望がないため)
妊娠中の鍼灸治療に対して感じている不安が、少しでも解消されればと思います
ただ、妊娠中に鍼灸治療を受ける・受けない、は皆さんの選択です
より安心で、より快適な妊婦生活を過ごせれば、選択肢や方法はいかなるものでも良いと思っています