産婦人科系治療をおこなうようになるまで

◎産科・婦人科治療へのいざない

前職(公務員)を辞めて、通い始めたのは鍼灸の専門学校
周りから見たら思い切った行動だったのかもしれません

でも、私としては何の迷いも不安もなく、ただその道へと進むのみでした
人の役に立ちたい、人の命を救うようなことをしたいと思い、前職を辞めて次に選んだ道は鍼灸師でした


大学生のときにもなりたいと考えていた鍼灸師
3年間の専門学校で学び始めると、新たに得る知識や技術など 学ぶことが楽しくて仕方がありませんでした
社会人を経験してから学生になると、一生懸命学ぶのかもしれません

東洋医学も西洋医学(現代医学)も面白く、人のからだのことを知り、最新の医療についても調べ、さまざまな勉強会や講習会にも参加し、鍼灸による多くの可能性を感じていました


そんな中、特に関心を抱いたのは東洋医学・中医学でした

現代医学も日々進歩し大きな可能性を秘めていますが、鍼灸師に医師と同等のことはできません
加えて、当時は現代医学の限界と少しの失望も感じていました

昔からの伝統・伝承・経験医学である東洋医学・中医学の自然をもとにした考え方に無限の可能性を感じていました
現代医学でもまだ完治できない難病も対応できるのではないかと


専門学校での授業内容は学科と実技ですが、学科内容は鍼灸師が医療系の国家資格であるため、現代医学の比重が半分以上を占め、その内容はより専門的で重篤な疾患なども数多く学んでいました

そのため難病や苦痛を伴う症状、極端に言えば死に向かっていく病に対して鍼灸でどうにかできないかと目が向くようになっていました


そんな中、3年生のときに中医学の授業で産婦人科治療を重点的に学ぶ機会がありました

女性の月経周期や生理痛、月経異常やPMSなどを中医学ではどう捉えるか、どう治療をしていくかなどについて学んでいましたが、その中で不妊症に対する捉え方とその治療、そしてその効果ついても学ぶ機会がありました


「自分はこの先 この治療を中心におこなっていきたい」とこの時に感じました

それまで、重篤な疾患 難病に対して「人の命を救うには」ということに目が向いていましたが、「新たな命の誕生」に鍼灸師としてかかわり できることがあるんだ と目から鱗が落ちる思いだったからかもしれません

自分の中では価値観が大きく変わり、その先の目指す道が見えてきた瞬間でした


そこから産科・婦人科系の治療へといざなわれることとなりました

 

◎ある女性の症例

鍼灸師の国家試験に合格し、3年間の専門学校を卒業後、中医学の産婦人科治療の授業をしてくれたその先生の治療院で働き始めました

週に2日、アシスタントとしてでしたが、近くで多くのことを感じ、学ぶことができたと思います
とはいっても、何かを手取り足取り教えてくれることはなく、自分のやるべきことをきちんとおこないながら、近くで知識や技術を吸収しながら学ぶといった感じでした


その先生は、産科・婦人科系の治療だけでなく幅広い分野の治療をおこなっていました
そのため、治療院には他のさまざまな症状の方も来院していました

そのような恵まれた環境の中、産科・婦人科系だけでなく幅広い分野の治療を仕事のさなか垣間見ながら学ぶことができました

そして、その先生の治療院で働き始めた初日に来院していたある女性を通して多くのことを学びました


その女性は不妊治療で治療院に通い始めたばかりでした

体外受精を予定していて、鍼灸治療により、妊娠しやすいからだ作りを目指し、月経周期を整え、採卵、移植、そして陽性判定に至りました

しかし、心拍確認後に流産となり、再度仕切り直してからの採卵、移植、陽性判定

その後 妊娠初期の出血、そこからの妊娠維持のための安胎の治療、そして妊娠後期には逆子、と本当にさまざまなことがありました

そして無事に女の子を出産しました


私は間近で、

治療家がその時々でどう考え、どのような接し方をし、どういう治療を施し、どう妊娠・出産までつないでいくのか

その女性がどのような心持ちで過ごし、喜び、悲しみ、つらい思いや不安など、からだの変化とともにどんな感情でいるのか

その過程を肌で感じながら、観ることができ、その中で自分でできることをおこないながら かかわることができました

ご出産のご連絡をいただいたときは、心の底から湧き上がる何とも言えない気持ちになったことを今でも覚えています


その治療院に勤務している間に、他にも妊娠・出産をしていった女性はたくさんいらっしゃいましたが、私にとっては、はじめに出会ったその女性がとても思い入れのある人となり、その後の自分の治療方針にも大きく影響することとなりました

 

◎最初から最後まで

その治療院で、産婦人科系だけでなくさまざまな症状に対する治療を観ていると、自分ならこうする・自分で治療院を開いたらこうしたい、などの思いが日に日に強くなっていきました

そして、横浜市青葉区あざみ野に自分の思い描く治療をおこなえる「ゆかり堂」を開院しました


開院当初は、広告宣伝もせず、治療院の看板もなかったので、人はほとんど来ません
ただ、それは想定内で、焦らず日々勉強と技術向上のための鍛錬を積んでいました

しだいにホームページを観て来院される方が少しずつ増え、ありがたいことにご紹介も多く、いまに至っています

ちなみに、開院して一番最初の治療は「逆子」でした


そして、開院して初めて子宝希望の女性が妊娠し出産までかかわることができたときは、喜びもありましたが必死だったので、出産のご報告をいただいたメールを読んでホッとしたことを覚えています


その後も、子宝希望で妊娠・出産し、もしくはつわりや逆子など妊娠中に来院されて出産し、その生まれてきたこどもと対面する機会があると「よく生まれてきてくれたね」とこころの中で話しかけます

鍼灸による治療でしかかかわっていませんが、こどもが生まれることがこんなに嬉しく、こんなにかわいいと感じるのであれば、その両親はどれだけ嬉しくかわいいのだろうか

そんな感情や気持ちを、子宝を希望する女性や妊娠中の女性に感じてもらいたい、と思うと、ますます精進しなくては、何とかその願いや希望を叶えたいと思わずにはいられません


臨床家としては、来院されてからその目的・願い・希望を叶えるまで、最初から最後までかかわれることに感謝し、最善を尽くしたいと思っています

 

◎未来へ

私個人の考えですが、「女性とこどもが元気に過ごせる社会が一番平和で豊かだ」と思っています


こどもを産むことが女性のすべてだとは思いませんが、産みたいと願う女性の望みは何とかして叶えたいと思っています

一般に「安心してこどもを産めない」と言われているのは、社会的・経済的・子育て環境面などを指していることが多いです

でも、こころやからだの面からも安心してこどもを産める手段は必要です
それらをおろそかにしては、未来はないと感じます


また、出産をするしないにかかわらず、女性が生き生きとしていること、こどもが伸び伸びと過ごしていることこそが、平和で豊かであると感じます

私がその女性とこどもの治療(女性専門の治療と小児はり)を中心におこなっている理由はそこにあります


女性とこどもが未来を担っている

その未来へつなぐために私ができること、そのひとつが産婦人科系の鍼灸治療であり、その治療をおこなう理由のひとつでもあります

 

 

episode 3 ゆかり堂だからできること

episode 4 ともに歩む治療を

episode 1 産婦人科系治療への思い