胚移植と鍼灸治療

「胚移植の前後に鍼灸治療をすると着床率が上がる」

そんな情報を目にした方(特に妊活中の方)は少なくないかもしれません

そこで
①胚移植の前後におこなう鍼灸治療は有効か
②鍼灸治療は単なる外的な刺激か
③鍼灸治療が有効だとして それはなぜか
④論文の中での検証は そのときだけ
⑤事前のからだづくりが有効
⑥胚移植といってもさまざま
について私の見解を書いてみたいと思います

 

①胚移植の前後におこなう鍼灸治療は有効か

海外の論文では、鍼灸治療は有効であると報告されているものがいくつもあります
その反面、有効でないという海外の論文もあります

(論文A)胚移植を受ける前と受けた後に25分ずつの鍼灸施術を
・受けた群…42.5%が妊娠
・全く受けなかった群…26.3%が妊娠
→鍼灸治療が妊娠に有効

(論文B)胚移植直後と移植3日後の2回
・それぞれ着床に有効とされるツボを30分ずつ鍼治療した群…28.4%が妊娠
・プラセボの鍼治療(着床に効果のないツボを刺激)した群…13.8%が妊娠
→鍼灸施術を受けたほうが着床しやすい

(論文C)体外受精か顕微授精を受ける635人の患者のうち
・314人に鍼治療…27%が妊娠
・321人にプラセボの鍼治療…27%が妊娠
→鍼治療が妊娠に有効とは言えない

※『医学哲学と倫理』第9号(2011年度) 仙波由加里「不妊治療と補完代替医療の関係性―米国の現状を概観して」

 

②鍼灸治療は単なる外的刺激か

上記論文でおこなわれている鍼灸治療の定義がどうなっているのか
一人ひとりに合わせた治療をおこなっているのか 誰にでも同じツボに同じ刺激をしているのか
私も以前に鍼灸の学術論文を書いたことがありますが、このような検証の場合
『「○○」という経穴(ツボ)に太さ0.△mm・長さ〇mmの鍼を〇mm刺入する』
というように条件を同一にすることが多いです
こういった検証の場合、鍼やお灸は単なる外的刺激として捉えられることが多いですが、鍼灸治療は果たして単なる外的刺激なのだろうか?と思います

職人や料理人でも腕が良い・悪いと言われますが、鍼灸師も腕の善し悪しはあります
同じツボに誰が鍼を刺しても同じ効果が出るとは限りません
また、治療をおこなう際、相手のからだの状態を把握し その状態に合わせてツボを選び治療をおこなうため、胚移植の際に誰にでも同じツボに同じ治療法をしている訳ではありません(少なくとも私の場合は)

これらの論文により科学的な検証はできますが、実際の治療とは少し異なるようにも思います
腕の良い鍼灸師が検証に参加した場合、妊娠する確率は上がるでしょうし、あまり腕の良くない鍼灸師が検証に参加した場合は、妊娠する確率が上がらないかもしれません

科学的に検証するとは『誰がどこでその医療をおこなっても同じ効果が出る』かどうかだと思います
そういう意味では、鍼灸治療を単なる外的刺激と捉えなくてはいけないのかもしれません
そして、そういう検証によって鍼灸治療が効果的だという結果が出ていることも評価すべきことかもしれません

鍼灸治療を外的刺激と捉え『誰がどこでその医療(誰に対しても同じツボに同じ刺激をおこうなう)をおこなっても同じ効果が出る』ため『胚移植の前後に鍼灸治療をすると着床率が上がる』という効果が有効かもしれません
しかし、現実として鍼灸師の腕の善し悪しが 効果に大きな影響を及ぼすことは、鍼灸治療の経験者ならお分かりかもしれません

 

③鍼灸治療が効果的だとして それはなぜか

着床をしやすくする・促すことに効果的だといわれる最大の要因は、子宮内(子宮内膜)の血流が良くなることだと思われます
胚移植をおこなった後、子宮内の環境(血流)が良ければ受精卵が分割や成長を続けやすくなり、着床に際しては子宮内膜に根付いてしっかりと血管を張り巡らせることで着床が成立するため、やはり血流が良いほうが着床を促せるといえます

※不育症や流産経験のある方が詳しい検査をすると、血流が良くないということで「バイアスピリン」を処方され血流を良くすることで、着床しやすくする・妊娠が継続するようにすることがあります(だからといって自己判断での薬の服用はせず、必ず医師にご相談ください)

血流を良くするには、カイロなどで温めればよいのではないか?とも思えますが、外から適度に温めることも良いと思います
ただ、鍼灸治療ではからだの内部の反応を促すこともできるため、外から温めるよりも効果的であると思えます

また、感じ方はそれぞれかもしれませんが
・治療中の会話や妊活のことを話せる場であること
・鍼灸治療が気持ちがよかった、からだが温まった
などが、こころとからだのリラックスやケアにつながり、それらが効果的な要因の一つになり得るともいえるかもしれません

 

東洋医学・中医学的な視点では異なる見解になりますが、一般的に理解しやすいように表現するのであれば上記のようなことになると思います

ゆかり堂では、一人ひとり異なるからだとこころに対して そのバランスを整えたり、体質に合わせた治療をおこなっているので、上記以外の効果も結果的に着床につながっていると考えています

一人ひとりのからだの状態に合わせて、どういう目的で治療をおこない どのような効果があるのかについては、実際の治療の際に個別にお話ししています

 

④論文の中での検証は そのときだけ

上記論文では、「胚移植を受ける前と受けた後」「胚移植直後と移植3日後の2回」に鍼灸治療をおこなったとされています
胚移植の前後または胚移植後に
・鍼灸治療をおこなった場合と全くしていない場合
・効果のあるツボに鍼灸治療をした場合と効果のないツボに治療をした場合
などとしていますが、いずれにしても胚移植のタイミングのときだけ鍼灸治療をおこなった場合です

ゆかり堂にお越しの方々では、胚移植の鍼灸治療において2つのケースに分かれます
胚移植の時期だけに鍼灸治療をおこなった場合
胚移植前からからだづくり(状態によっては体質改善)をおこない、胚移植の時期にも鍼灸治療をおこなった場合

 

⑤事前のからだづくりが有効

ゆかり堂にお越しの方々は鍼灸治療をおこなうため、鍼灸治療をおこなっていないケースとの比較のデータはありません

・初めての胚移植で、鍼灸治療をおこなった
・2回目以降の胚移植で、初めて鍼灸治療をおこなった
これらのケースで、妊娠・出産に至った際は「妊娠したのは鍼灸治療の効果があったため」と感じていただけるようです

・胚移植の時期だけに鍼灸治療をおこなった場合
・胚移植前からからだづくり(状態によっては体質改善)をおこない、胚移植の時期にも鍼灸治療をおこなった場合
これらを比較すると、胚移植の時期だけ治療をしてもうまくいくケースももちろんありますが、事前のからだづくりをして胚移植に臨んだほうが妊娠・出産に至ることが多いです

※ただし、胚移植の時期だけ治療をした場合、妊娠判定の結果をご報告いただいていないこともあるため、正確な比較はできていません(のちに、つわり・逆子の治療の際や産後にご報告をいただくこともあります)

 

○事前のからだづくりはさまざま

採卵前から鍼灸治療をはじめる…卵胞の成長を促す・質の良い卵へと促す【質の良い卵:受精(授精)する・受精卵となる卵】
移植前から鍼灸治療をはじめる…子宮内の環境を整える・子宮内膜が厚くなるように促す・移植前の緊張を緩和(リラックス)→着床しやすい環境づくり
着床後を想定したからだづくり…妊娠の維持ができるからだの状態に促し保てるようにする(特に流産経験のある方)

◎事前からそれぞれを目指したからだづくりをおこなっていくことができます

 

⑥胚移植といってもさまざま

(a)体外受精か顕微授精か
(b)新鮮胚か凍結胚か
(c)初期胚か胚盤胞か
(d)自然周期かホルモン補充周期か
この組み合わせだけでも16パターンあります

※私の場合、移植胚の状態とからだの状態によって、治療をするベストな時期もあるのではないかと考え お伝えしています
【私からは経験上の考え方だけをお伝えし、どの時期に治療をおこなうかは ご本人(ご夫婦)の判断に任せています】

これらに加えて、精子の状態による受精卵への影響、受精卵のグレード、一人ひとり異なるからだの状態などさまざまな要素も含めて、一人ひとりに合わせた治療をおこなっています(少なくとも私の場合は)

 

◎私の見解のまとめ

「胚移植の前後に鍼灸治療をすると着床率が上がる」

ある意味ざっくりとした情報であることがわかります
ただ、何もしないよりは鍼灸治療をおこなったほうが効果的ではあると思います
さらには、可能であれば事前のからだづくりをおこなっていたほうがより良いといえます

ただし、鍼灸治療は腕の善し悪しも影響しますし、一人ひとり異なるからだの状態を把握し これまでの経過や現状を加味した上で 最も適した治療をおこなうことがより効果的であると思います

体外受精・顕微授精は、身体的負担・精神的負担・経済的負担などさまざまな負担を伴うことが多いです
可能な限りそれらの負担が少なく妊娠・出産に至りたいと思うのは、皆さんも医療関係者も私も同じです
これまで書いてきたことが皆さんの参考になったかどうかわかりませんが、これから胚移植を控えている方や これから体外受精・顕微授精へ進もうかと考えている方が 妊娠・出産に至るためのお役に立てれば幸いです

 

※体外受精になると、金銭面の負担や、からだへの負担も大きくなってきます
◆金銭面では、自治体により公的補助があります
・ただし、受診内容や所得、年齢による制限もあるため、 詳しくは、お住まいの各自治体にお問い合わせください

◎横浜市特定不妊治療費助成

◎川崎市特定不妊治療費助成

◎相模原市特定不妊治療費助成

◎横須賀市特定不妊治療費助成

◎神奈川県(横浜市・川崎市・相模原市・横須賀市を除く)

◎東京都特定不妊治療費助成

 

☆不妊検査等助成事業
東京都では、子供を望む夫婦が早期に検査を受け、必要に応じて適切な治療を開始することができるよう、不妊検査及び薬物療法や人工授精等の一般不妊治療にかかる費用の一部を助成しています
事実婚の方も助成対象です

◎東京都不妊検査等助成事業

 

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